これは私が中学生の時に体験した、気味の悪い話です。
当時サッカー部に所属していた私は、練習の一環として部員全員で学校の敷地内の外周を走り込むランニングをしていました。
サッカーは好きでしたが、練習にはあまり真面目に取り組んでいなかった私。監督や他の部員たちの目を盗み、校舎裏にある非常階段でランニングの列を離れてサボる事にしました――。
非常階段の下で他の部員達が見えなくなるのを待ち、1人きりになったところで階段を登り始めました。上まで行けば誰からも見つからないだろうと。
そしてこれから通るであろう階段の折り返し、踊り場の様なスペースを見上げた時、思わず目を止めて凝視してしまう、あるモノが目に飛び込んできたのです。
非常階段の格子状になっている手すりの上の部分。その縁の上に「人の顔」がポツンと乗っかっているんです。
一瞬ギョッとして体が固まってしまい、声すら出ませんでしたが、その「人の顔」から目が離せません。首より下の部分は格子状になっていて見えるはずなのに体が無い。向こうの景色が見えている。つまり「生首」なのです。
中年の男性の様な顔立ちでどこか遠くを見ている眼差し。髪の毛は長髪ですが頭頂部が剃られているようで、まるで落ち武者の生首の様です――。
「ウソだろ……?」
心の中で思わずそう呟きました。
恐れ慄きつつ凝視し続けていると、落ち武者の生首の目が突然「グリン」とこちらに回り、がっつり目が合ってしまいました。
こちらを覗く表情はとてつもなく怒りを感じる様な険しい表情で、私はこの状況でどうしていいのか判らずにそのままジッとしていました。しかし次の瞬間。何の前触れもなく――。
「ガンッ!!」
鈍い金属音が響き、その後に右膝に激痛が走りました。
気が付くと私は階段で転んでいて、右膝の皿の下辺りがザックリと切れて流血していたのです。自分でもどうやってこの状況になったか判りません――。
「痛たたた!!」
叫び声を挙げながらも生首の方を見上げてみると、その時にはもう非常階段の縁に生首の姿はありませんでした――。
この怪我が原因で、私はしばらくサッカーをする事が出来なくなりました。あの日見た生首が何者で、私の前に現れた理由は何なのか。それらを知る由もありません。
この出来事に遭遇して以降、私は物事には多少なりとも真面目に取り組むようになりました。何故ならあの怪我。練習をサボろうとしなければ、負わなくてもよかった怪我かもしれませんので……。