これは、部類のバイク好きで、毎週末に山へ走りに行くのを趣味にしていた先輩が体験したというお話です。都内に住んでいる先輩が走りに行く山といえば、主に奥多摩方面や秩父方面だったそうなのですが――。
先輩がこだわり抜いて選んだ、自慢の大型レーサーレプリカタイプのバイク。これに意気揚々とまたがり、深夜に颯爽と目的地である秩父方面に向かって走っていました。
奥多摩方面から秩父方面に抜ける途中、名栗周辺の峠道に差し掛かりました。周りには材木置場の様なものがあり、それ以外はうっそうと茂った林のみでどんよりと闇が深く暗い峠道。
ふと前方に人が1人歩いているのを発見しました。服装や背格好、歩く仕草を見る限り、背の小さなお婆さんの様に見える。時間はとうに午前1時は回っているこんな深夜に、1人でトボトボと歩いているのです。
先輩はそのお婆さんを追い抜くタイミングは、その先にあるヘアピンカーブ辺りであろう。そう予想して、万一にでも事故等起こさない様に減速していき、ほとんど徐行になるほどスピードを落としきった時、左手にお婆さんを見ながら追い抜くようにヘアピンカーブに差し掛かりました。
今まさにお婆さんの横を通り抜けるかという、その瞬間――。
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁ~~~」
いきなり、お婆さんが先輩の方を振り向き、目を大きくひんむき、大きく口をガバッと開けて、両手を前方に突き出して奇声を発しながら迫って来たのです。
狭い峠道のヘアピンカーブ。お婆さんの手はすぐにでも先輩に掴みかかるかの様な至近距離であり、突然の出来事に心底驚いた先輩は思わず――。
「うわぁぁぁ!!」
悲鳴に近い様な叫び声を上げながらアクセルをブワッと開いて、一目散にカーブを曲がり切って逃げ去ったそうです――。
夜の峠道を走っていたりすると、確かに時たま人が歩いているのを見かけたりはするが、まさかあんな体験をするとは思わなかった。お婆さんが両手を前方に突きだす様は、昔に流行った「キョンシー」の様な感じだった。先輩はそう語っていました。