大分前の話ですが、私が会社で1人、残業をしていた時に体験した出来事です。
その時、時計の針は既に夜の12時を回っていました。お腹が空いたのでちょっと一息つこうと、近所のコンビニへと夜食を買いに行く事にしました。
オフィスがあるのは会社の5階。コンビニへは裏口から出た方が近いからと、建物の裏手にある物品搬入用の大きなエレベーターに乗って1階に降りました――。
コンビニで買い物を済ませて会社の裏口に戻ると、搬入用エレベーターには1階のランプが点いていました。私は思わず――。
「ラッキー」
などと思って早足に近づき、ボタンを押してドアを開きました。すると中に人が居る。40代くらいに見える男性で、エレベーターのど真ん中にジッと立っている……。
彼はあまりにも無表情でこちら見ていたので、目が合った瞬間に一瞬ビクッとなってしまいました。
ここは社内だし、名前は知らないけど、何となく顔は見たことがある気がしたので――。
「どうも」
と、軽く会釈をして私もエレベーターに乗り込みました。
搬入用エレベーターがゆっくりと5階へ上がって行くうちに、私は妙な違和感を覚えて、それが何であるかに気が付きました。
1階で停まっているエレベーターが開いた時に、中に人がいるはずがない。この男は、12時過ぎの搬入用エレベーターの中に1人で立っていたか、もしくは誰かが来るのを待っていたんじゃないか――?
「しかし何の為に……?」
シーンと静まり返るエレベーターの中。背中に嫌な汗をかき始めた頃に5階に到着したので、私はそそくさとエレベーターを降りました。
後ろを振り向きはしませんでしたが、自分以外の足音が聞こえるかどうかに全神経を集中しました。しかし足音は聞こえませんでした。
そう。考えてみれば、そもそも会社には私以外、誰もいなかったのです――。
気味が悪くなってしまった私は、仕事を早めに切り上げて1時半頃には帰る事にしました。帰り支度を済ませた後、興味本位で帰る前にもう1度、裏口の搬入用エレベーターを見に行ってみました。すると――。
「1階のランプが点いている……」
私は無言で乗るのをやめて、人が乗る用の玄関側エレベーターに乗って帰る事にしました。
もしもあの時、仮に5階のランプが点いていたとしても、やっぱり乗れなかったと思いますけどね。