廃墟の捨て子

人怖 アイキャッチ
投稿者 – マサル様

 私が中学生の時の話です。地元がそこそこ田舎であった事もあり、遊ぶところも少なく、その日も暇を持て余していました。

 普段は山で走りまわったり、川で釣りをしたり、夜には近所のコンビニの前に溜まって、あーでもないこーでもないと「ダベる」。そんな時に友人のY君が、ある提案を口にしました――。

「なぁ、廃墟行ってみない?」

 正直、変わり映えのしない毎日に退屈感が否めない。「廃墟に行って探検する」この言葉面を頭の中でもう一度読み返すだけで、非日常的な冷たい空気感と、胸が躍るような高揚感が同時に押し寄せてくる。

 自衛隊員を父に持つK君の家に、懐中電灯やロープ、サバイバルナイフ等の探検グッズを取りに行き、その足で地元近辺にある廃旅館が建ち並ぶエリアへと向かいました――。

 メンバーは私とY君とK君の3人。目的地の廃旅館群がある場所は、今は車等が通行できない細い林道の先にありました。

 鬱蒼とした山道を抜け、いざ廃旅館群を目の当たりにすると、その広大さに威圧感を感じて思わず息を飲みました。

 ここは所謂、大昔に捨てられた場所と言いますか、入口が破壊されたり窓ガラスが割れたり壁に落書きがされていたり……という様な一般的な廃墟のセオリーに反して、廃墟化してからほとんど人が入っていない雰囲気。元の活気があったであろう旅館街から人がいなくなって、ただひたすらに時間だけが流れて朽ち果てた「綺麗な」場所でした。

 とはいえ、経年劣化相応にボロかったり脆かったりはします。所々天井が落ちてしまっていたりとか、崖の縁に立っている旅館は崖の下に向かって崩れかかっている状態だったり、そんな様子でした。故に、いざ中に入ろうとなれば非常に注意深く進んでいく必要がありました。

 自分たちの左手、下を川が流れている谷のような場所の向こう岸にある廃旅館。草にまみれて窓があるかも分からない様なこの旅館を、私達は手始めに探検してみる事にしました。

 この廃旅館群がいつの時代のものかは分かりませんが、観た感じの建物の様式から、昭和初期とか、大正時代。もしかしたらもっと古い時代のものかも知れません。

 こんな場所なので、3人とも無条件に怖いという感情を抱きざるをえないながらもこれを目的に来たわけなので、ただただ寡黙に奥へ奥へと進んで行きました。するとその時、私達はある奇妙な事に気付いたのです――。

「おぎゃ~……おぎゃ~……」

 うっすらと聞こえる赤ん坊の泣き声。

 いや待て、そんなわけがない。なぜならここは「山奥にある廃旅館」なのだから。

 きっと気のせいであろうと廃墟探索を続ける私達。しかし3人の耳には、それからも赤ん坊の泣き声が届き続けていたのです。これはよもや思い過ごす事も出来ない事態なのではないだろうか……。私達は、恐る恐る赤ん坊の泣き声がする方向へと歩を進める事にしたのです――。

 最初に泣き声が聞こえてから、どれくらい時間が経っただろう。泣き声の発信源を探りながら探索を続けて、しばらく時間が経ちました。最初に入った廃墟以外の建物も探索し、おそらく1時間以上は経ったのではと思いましたが、一向に泣き声はやみません。

 これはまさかの「霊現象」の様なものなのか、それとも本当に存在している赤ん坊の声なのか。前者であればもちろん恐怖ではありながらも、後者であればそれはそれで大変である事も容易に想像が出来ました。

 万が一捨て子だったらどうしよう。助けなければ。という中学生3人組の青い正義感の元、ひたすらに廃旅館群の中を歩き回りました。そして――。

「おぎゃ~!おぎゃ~!」

 ついに、泣き続けている赤ん坊が中に居るであろうと、しっかりと確信の持てる廃墟を見つけたのです。

 入口は閉ざされていましたが、朽ち果てた木製のドアだったので、足で思い切り蹴り飛ばすとあっさりと中に入る事が出来ました。

 建物の中に入ると、泣き声は奥の方にある部屋から聞こえているようでした。ボロボロの古い板の床を踏み抜きながらも進んで行き、いざ部屋の前まで辿り着くと――。

「ぶおおおぉぉぉーーーーーー……」

 突然わけの分からない謎の音が鳴り響いたかと思うと、その直後に鼻の粘膜をつんざく様な激臭が襲ってきました――。

「くっさ!!!なんやこれ!!!」

 例えるなら、大量の腐った魚の山を目の前にした時の裕に5倍くらいは強烈な腐乱臭。3人とも嗚咽と葛藤し、顔を歪めながらも部屋の扉を開けました。

 するとそこには、巨大な黒いゴミ袋の様なモノ。そしてその隣に、段ボール箱に入れられた泣きわめく赤ん坊が居たのです――。

 それから数十分後。私達は町に戻っていました。

 公衆電話から警察に通報し、赤ん坊の居る場所を告げてすぐに切って逃げました。何故そうしたのかと言いますと、正直なところ無用な面倒はご免、という事なのですが……。

 まず自分たちが廃墟を探索していた事の後ろめたさを感じた事。正体のわからない謎のぶおおおぉぉぉー…という奇怪な音。それともう一つ。赤ん坊の隣にあったゴミ袋の事が、どうも気になってしまって、しょうがなかったからなのです。

 とてつもない異臭を放つ部屋に置かれた、1つの巨大な黒いゴミ袋。灯りを当てて中を確認したわけではないです。ですがどうも……。人が1人。入っていてもおかしくない様な大きさと形をしていたんですよね――。

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