私が学生の頃のある日、よく一緒に遊び歩いていた先輩「ヒロトさん」からいつもの様に電話が掛かって来ました――。
「暇だから散歩でもしに行かない?」
ヒロトさんは大学がある土地が地元であり、サークル活動終わりによく後輩たちを家に招いては色々とお世話をしてくれたのでした。
「今日はお前しか捕まらなかったよ」
ヒロトさんの家に着くと、「いつものメンバー」は集まっておらず、今夜は2人きりである事を知りました――。
「お前ら心霊スポットとかよく行ってんだろ?」
突然ぶしつけにそう言うと、目を輝かせながら続けました――。
「これからある所に向かおう……」
何処に向かうか尋ねても、ヒロトさんは教えてくれませんでした。私は首をかしげながらも仕方なく、彼の後を付いて散歩へと繰り出したのでした――。
時間は夜の23時を回った頃でした。平日の夜の住宅街。辺りはシーン……として、時たまどこかの飼い犬の鳴き声や、テレビの音声が聞こえてきます。街灯などは薄暗く、住宅からわずかにこぼれる電灯の明かりと月明かり。ふとヒロトさんが聞きました――。
「お前さ、霊感とかあるの?」
私は自分では正直、そんなものは持ち合わせていないと思っています。確かに心霊スポットに行ったりすれば、おかしな体験や不思議なモノを見たり聞いたりは稀にありましたが、日常的には感じる事はありません。
それを伝えるとヒロトさんは――。
「ふ~ん……」
口元をニヤけさせながら、私の言葉には懐疑的である様な態度をとるのでした。
そんなやり取りをしていると突然目の前の道が無くなり、私達は行き止まりの前に立っていました。
行き止まりには下に降りるための階段があり、高低差は10m弱程はあるかといった感じで、下には児童公園があるようです。しかしそこには大きな木が立っており、枝や葉が邪魔をしているので見降ろす視点からではよく見えません。
ヒロトさんと私は階段を降りて、児童公園の中央辺りまで歩いて行きました。すると私は突然「ズキッ!!」と激しい頭痛に襲われました――。
「いたたたたたっ!!!」
あまりの痛さに吐き気をもよおし、頭を抱え込んでその場にしゃがみ込んでしまいました――。
「おい!大丈夫か!?」
ヒロトさんは私の肩を抱えて、引きずる様に公園の外へ連れ出しました。するとその直後、信じられないほどスーッと頭痛が消えていったのです。本当に先程までの痛みが嘘の様に引いて行ったのです――。
「あ~……やっぱりな」
ヒロトさんが語りだしました。確かに私自身には霊感の様なモノは無い、自覚自体が無いのだろうが心霊スポットの様な所に行きすぎて、ヤバそうな所に来ると体が反応するようになっているのではないかと。それこそ霊感がある人の様な感じで……と。
「ヒロトさん……それ、どう言う事っすか?」
思わず私は聞き返してしまいました――。
「いや、実はな。ここ、曰く付きの場所なんだよ……」
当時から遡る事十数年前、この児童公園の大きな木で奇妙な事件があったそうなんです。
ある夜、1人の中年男性の首吊り遺体が発見されたのでした。当初は自殺であるかに思われたこの出来事には、不審な点が見受けられたそうなんです。
児童公園に立っている大きな木。男性が首を吊る為のロープをこの木の幹にくくり付けたのだろうが、その場所は周りに足場も無い地上数メートルの位置。遺体自体もそんな高い位置にぶら下がっており、脚立など何か高い所に手が届くようにする為の道具類など、一切無かったと言うのです。
男性は一体どうやって首を括ったのだろうか……。他殺という説も出たそうなのですが、警察の捜査も実らずに当時から真相は闇の中。現在に至るそうです。この出来事は当時ニュースにもなったそうで、地元では知らない人はいないんだそうです――。
「お前みたいな奴を連れてきたら、何かあるかな~と思ってね」
ヒロトさんはそんな事を言いながら、ヘラヘラと笑っていました――。
数日後のある日、サークル活動終わりにヒロトさんから電話が掛かって来ました――。
「暇だからドライブでもしに行かない?」
この日、自分以外のメンバーは都合が付かず、またしてもヒロトさんと2人きりの夜となりました。車で彼の家まで迎えに行くと――。
「今日はさ、心霊スポット連れてってくれよ」
この前あんな事があったので、私は気乗りがしませんでした。しかしヒロトさんのわがままに押し切られ、とりあえず近場のスポットに向かう事にしたのです――。
「あっ。その前にコンビニ寄ってくれる?道教えるからさ」
そこを曲がって、そこを真っ直ぐ。左側に……言われた通りに進んで行くと、セ○ンイレ○ンが目に入りました。駐車場に入り車を停めると――。
「トイレ行っておいた方がいいよ。行ってきなよ。ほら早く!」
凄い勢いでヒロトさんに促されたので、尿意も便意も特に無かったのですが、仕方なくトイレに向かいました――。
個室に入り何となく便器と向かい合っていると、突然辺りの気温が下がり始めた気がしました。空調などの感じでは無く、サーッと異様な雰囲気が充満してグングン寒くなって行くのです。妙な緊張感が走り、顎が震えて歯がカチカチと音を立て始めたので、本能的に「ここから離れなければ」とトイレを出ようと思い立ちました。
するとふと、個室内の横の壁にとてつもない違和感を感じたのです。
壁の横の一部が数十cm奥にスペースが開いており、大きな棚の様になっています。建物としてはかなり不自然な感じに。その棚のスペースの様な所の下段の床面、端に何かがあるのを見付けました。
盛り塩でした。こんもりと山の形に盛られたそれは、山頂部分の形が削られたかの様に崩れていて、茶色くドロッと変色していたのです。
それを見た瞬間背筋が凍りついた様に全身に鳥肌が走り、思わずトイレを飛び出して車まで走って戻りました。そして車に乗り込むと――。
「どうした?何かあったの?」
ヒロトさんがニヤニヤとしながら聞いて来るのです。まさかと思いました――。
「ここ、何かあるんすか?」
「お前すげーわ。分かるんだね。やっぱあるんだよ霊感!」
「いや、無いっすよ霊感なんて。で、なんなんすかココ!?」
このコンビニ、少し前までヒロトさんがバイトをしていたらしいのです。最近リニューアルオープンしたそうで、タイミング的な問題で辞めてしまったそうなのですが。
リニューアル前、ヒロトさんがバイトを始めるずーと前、何年も遡るそうなのですが、ある怪事件が起きたそうです。
トイレで女性の切断された指が発見される……。
もちろん警察の捜査も入ったそうなのですが、この指が一体誰のモノなのか。結局判らず仕舞いだったそうで、その出来事以降、コンビニ内で気味が悪い事が起こり始めたそうです。
深夜にレジ裏のバックヤードに1人で居ると、何処からともなく女の話し声が聞こえる。冷蔵庫の裏で商品の整理をしていると、誰もいないはずなのに足音が聞こえる等……。
「得体の知れない何かがいる」
ヒロトさん自身は体験した事は無いそうですが、他のバイト達の中にはそれを気味悪がって辞めてしまった人もいたそうです。
そう言った理由から気休めにしかならないかも知れないが、女性の指が見つかった場所に盛り塩をするようになったそうです。その習慣が、リニューアルオープン後も続いているのだそうです。
店員さんに、当時ヒロトさんと一緒にバイトをしていて、今でも続けている人がいました。その方に最近はどうなのか、店も新しくなったし……。聞いてみるとこう答えるのです――。
「今もいるよ」
その日は心霊スポットに行く気力が無くなってしまったので、ヒロトさんを家まで送り届けて解散する事になりました。
別れ際、彼は私に向かって言ったのです――。
「お前は、まるで心霊センサーだよな」