僕が通っていた学校は、よく霊の目撃談がでるところだったのです。例えば、食堂に落ち武者の霊が出るという話。これの原因として挙げられている理由が、学校が建っている土地が昔、所謂「首切り場」であった事によるとか。とにかくそう言った話が絶えないような学校だったんです。
ちなみに学校は全寮制で、ルールの一つとして「男子寮は夜の8時30分に点呼」「女子寮は夜の8時に点呼」というものがありました。運動部が盛んな学校だったので、点呼前ギリギリまで練習をするのが当たり前。その日もいつも通りの部活動をしていて、そろそろ寮に戻らなければならない時間が迫っていました――。
野球部の先輩が素振りをしていると、白い服を着た女がポツンと立っているのを見つけました。グラウンドの脇にある小高い丘の上に、1人で立っています。
その女を見ている内に何やら違和感を感じてきた先輩は、近くで坂道ダッシュの往復をしていたサッカー部の友人にその事を話してみました。するとサッカー部の友人が、次のダッシュ1本を走ってくるついでに、どんな女なのか見てきてやるよと言いました。
サッカー部の友人が丘の上までダッシュをして、白い服の女の顔を違いざまに見る。そしてそのまま走ってグラウンドまで戻ってきました。さっそく野球部の先輩がどうだったのかと聞いてみると――。
「なんていうかさ、よくわからなかった。」
そう言われました。何だよそれ……と思って詳しく聞いてみると――。
「不気味な話だけどさ。女の顔、白いモヤみたいなのがかかってて、顔をちゃんと認識できない感じだった」
なんとも気味が悪い感想を聞かされたのです――。
その後しばらく、先輩と友人は2人でその女の事を眺めていました。
すると、白い服の女がトコトコと坂道を下って来たのです。そしてそのまま迷うことも無く、グラウンドの脇にあるトイレの中に入って行きました。そのトイレは、昼でも中が真っ暗で電気もついていない、ただただトイレという事で申し訳程度に設けられている簡素なモノでした。
2人は固唾を飲んでそのトイレをしばらく見守っていましたが、どれだけ待っても女が出て来ません。
仕方が無いので、2人はそれぞれの練習をしながらも、ずっとトイレに注目し続けていました。そのまま時間は刻々と過ぎて行き、ついに女子寮の点呼時間である夜の8時を迎えました。
しかしトイレからは、未だにあの女が入ったっきり出てこない……。
さらに時間が経過し、8時30分を迎えてしまいました。自分たちも寮に戻らなければなりません。最後の最後までトイレを見ていましたが、結局トイレから女が出てくることはありませんでした――。
あの白い服の女。学校内で見かけた事が無い女で、寮の点呼時間になってもトイレから出てこなかった上、女子寮のその日の点呼は特に異状も無く終わったそうです。さらには、基本的に学校のグラウンドの敷地内には、関係者以外が立ち入る事はありません。一体あの女は何者だったのか……。
以上、僕が通っていた学校での不思議なお話の一つでした。