これは、とある大学生の夏休みの話です。
サークルの先輩たちとBBQをしに、河原へと遊びに行きました。しかし会の途中で飲み物や肉が足りなくなってしまい、後輩の2名が車に乗って買い出しに行くことになりました――。
川原から最寄りのスーパーまでは、片道40分程度。河原からしばらくは、舗装すらされていない山道をひたすら走って行かなくてはなりません。また、基本的には一本道なのですが、途中に標識が建っている分かれ道が1つだけありました。
その分かれ道を、標識を左手に見ながら右方向に通り過ぎ、しばらく車を走らせると、街並みが見え始めてきました。
無事スーパーで買い物を済ませた2人は、車に乗り込み元来た道を帰って行きました。しばらくすると、標識がある分かれ道が見えてきました。行きは標識を左手に見て右方向へ通り過ぎたので、2人は標識を右手に見て左方向の道を選び、さらに車を進めました。
その後3分程走って行くと、再び標識のある分かれ道が見えてきました――。
「あれ?標識ある道って、2つあったっけ?」
最初はまぁ、見逃していたんだろうなと考えて、標識を右手に見ながら左の道へと進みました。
しかし、その後3分程走って行くと、再び標識と二つの分かれ道。
おかしいなとは思いましたが、2人はとりあえず、左の道を走って行ったらその内河原に辿り着くだろうと話し合い、ひたすら左の道を突き進んで行きました――。
それから30分。標識と分かれ道を何度も何度も通り過ぎ、未だに河原に戻れません。さすがに道を間違えたのかと思い始めたのと、イライラが募って来たので、車を停めて標識の下でタバコを取り出し、一服を決め込んだのです。
一息ついた2人は気を取り直し、もう一度車を左の道へ走らせたのですが、3分程走るとまた標識が――。
「くそ!また標識かよ!」
ブチキレながら暴言を吐いていたのですが、標識のたもとをよくよく見てみると、さっき自分達が捨てたタバコの吸い柄が落ちているのです。
「あれ?ひょっとして俺たち、ずっと同じところ回ってたんじゃ……」
2人は顔を見合わせて、しばし硬直してしまいました。
そのまま10分程経ったでしょうか、1人が――。
「なぁ、試しに右の道行ってみないか?」
モノは試しと、1回だけ右の道を進むことにしてみました。
すると、進んだ先には今までと違う景色。そのままさらに10分程車を走らせて行くと、遂に先輩達のいる河原へと辿り着いたのです――。
2人が戻った頃には、もうすでにBBQはお開き状態でした。先輩達から――。
「おいお前ら、どこまで買い物行ってたんだ?おせぇよ!」
と叱られました。焦った2人は、先ほどまでの自分達の状況を説明する事にしました――。
「すいません……ちょっと道を間違ってしまって……」
「標識の道、左に進んで同じ所をずっとぐるぐる回っちゃってて」
「でも右に進んでやっと着いたんですよ~。すんません」
すると怪訝な表情を浮かべた先輩が――。
「何言ってんだお前?」
2人は一瞬、先輩にさらに叱られると思いましたが、その後の一言を聞いて、背筋に冷たいものを感じたのです――。
「標識んとこ右に行ったら、その先は崖しかねぇぞ?」