先輩が、以前の職場で友人から聞いたというお話です。知らなかったと事とはいえ、後悔先に立たずとはこういう事なのだろうかと――。
その友人の方は職場からかなり離れたところに住んでいて、毎日車で山をひとつ越えて出勤していたそうです。
ある日の夜。残業で帰宅時間がかなり遅くなってしまい、深夜の山道を車で走っていました。時間帯的な事もあるのか人っ子一人いない静かな道で、他の車ともしばらくすれ違ってもいなかったそうです。
そんな時、毎日通っている道の途中にトンネルが1つあるのですが、その入り口に差しかかりました。すると深夜の山道に、幼い女の子が1人ポツンと歩いていて、こちらに向かって手を振っているのです――。
「ああ、これは……。きっと見てはいけないヤツだ……」
直感的にそう感じた友人は、車を停めることなく少女を素通り。そのままトンネルの中へと入って行きました。
それから少し走ってトンネルを抜けた先、今度は1人の男性が歩いているのを見付けました――。
「こんな深夜の山道に、今日は随分変なものを見かけるな……」
そう思いながら走り去ろうとすると、その男性がこちらに向かって手を振ってきたのです。
先ほどの事もあり、一体何なんだろうか?と友人は車を停めました。するとその男性が駆け寄ってきたので、窓を開けてみました。すると――。
「あのう、この辺で小さい女の子を見かけませんでしたか?」
「はぐれてしまって、とても困っているのですが……」
そう言われた友人は、もしかしてさっき見かけたトンネル前の女の子。あの娘はひょっとして、この人の娘さんだったのではないかと考えて――。
「女の子だったらさっき、トンネルの反対側で見かけましたよ」
そう教えると男性は――。
「そうですか。助かります。ありがとうございました。」
と、気味が悪いほどに淡々と答えて、そのまま小走りでトンネルの中へ消えて行きました――。
そんな事があってからしばらく経ったある日、職場の休憩時間に皆でテレビを観ていると、とあるニュースが流れてきました。
「連続幼女誘拐バラバラ殺人事件の容疑者が逮捕されました。」
ニュースキャスターがそう言うと、殺害された被害者の少女たちの顔と、ある男の顔写真が容疑者として映し出される。友人はそれを見た瞬間に絶句して、目を丸くしたまま顔がサー……っと青ざめていきました。
その日の夜、皆で呑みに行く事になりました。酒の席で友人が、静かな口調でこう漏らしていたそうです――。
「あの日、女の子を見かけた時にさ、車を停めてさ、こんな夜中に1人で何してるの?とか、声かけてたらさ……」
「そう思うと今、ホント悔やんでも悔やみきれないよ……」