ある日の夜の話。地元の友人から「廃屋になっている公民館」があるとの話を聞き付け、私達は数人で肝試しへと向かったのでした――。
この公民館は山中にあり、到着してみると当然のごとく辺りには明かりも無い。大きさも平屋の一戸建て程度でこじんまりと寂しそうに建っている、凹字形の建物でした。
入口に立つと鍵は壊されていたので、難なく中へと入る事が出来ました。
肝試し特有の高揚感を抑えきれず、また少し物怖じしつつも手の中の懐中電灯を灯し、まず凹字形の左側へ進んで行きました。
奥まで進んで行くとそこには8畳程の和室があり、その向かいには給湯室の様な小部屋があるだけでした。
一旦入口まで引き返し、今度は反対側、凹字形の右側へと歩みを進めました。
廊下の角を直角に曲がった先。真正面に擦りガラスの引き戸が見えて、その手前側から一段廊下が高くなっており、そこに緑のスリッパが50足程度並べられているのです。
何やら気味の悪さを感じつつも、思い切って擦りガラスの引き戸を開けてみると、そこはだだっ広い、それこそ50人は入れるかという規模の葬儀会場になっていたのです――。
深夜の廃屋、葬儀会場。私達は息を飲みながら、懐中電灯で辺りを照らしてみました。
まず正面に祭壇があり、その左右にパイプ椅子が並べられている。献花や花環は枯れ果ててしまっているが、パイプ椅子の上にパンフレットが置かれている。
その場の空気と言いますか、何やらついさっきまで葬儀が執り行われていたかの様な雰囲気を色濃く感じさせられました。
そのまま正面の祭壇の方に懐中電灯を向けた瞬間、皆が一斉に――。
「あっっっ!!!」
思わず声を上げてしまったのです。
棺です。棺が置かれているのです。
驚きと突然の恐怖から皆動けなくなって固まってしまい、棺を照らしたまま見ていたのですが、そこでもう一つの事に気が付いてしまったのです。
棺の御遺体の顔の辺りにある覗き窓。そこがポッカリ口を空けて開いているんです――。
「ぎゃーーーっっっ!!!」
張り詰めていた恐怖心が一気に暴発してしまった私達。絶叫しながら公民館の外へと逃げ出してしまったのでした――。
しばらく後、私達は明るいファミレスに腰を落とし、温かい飲み物で一服。気持ちを落ち着かせていました。急いで車に飛び乗って街まで逃げ降りて来たのです。
私は公民館の廃墟を教えてくれた友人に、今日あった出来事を電話で報告をする事にしました――。
「ホントに怖かったよ(泣)前に行った時もあんな感じだったの?」
私達の見たモノをありのまま話してみると、友人からはそれは意外なリアクションが返って来たのです――。
「何言ってるの(笑)」
「あんな平屋みたいな公民館、50人も入れる様な広い部屋ある訳ないでしょ」
耳を疑いました。だって、確かに擦りガラスの引き戸があって、そこを開けた先には葬儀会場が……。こう説明していると友人は――。
「入って左側の方は8畳くらいの和室と給湯室でしょ」
「入って右側の方は8畳くらいの和室とトイレしかないでしょ」
「そもそも擦りガラスの引き戸ないでしょ。普通のドアしかないし」
友人が、現場に直接行った直後の私達に嘘をつく必要もなく、騙したりからかっていると言う事でもない様子でした。
すると先刻、私達が観た葬儀会場は一体なんだったのか……。もう二度とあの廃公民館には近づくまい!と、私達は心に決めたのでした。