私が高校生の頃、実家を建て替える事になりました。実家は絵に描いた様な田舎町で、建替え工事の期間中に近所の農家さんから空き家の一戸建てを借りて、そこで仮住まいをしていました。
当時、その家の2階の1部屋を、私と妹の二人で使っていました――。
ある夜。中学生の妹がお風呂に入ると言ってきました。私はその日凄く眠くて、自分が先にお風呂に入って寝てしまおうと思いました。
妹にその旨を伝えてから、私はお風呂に入って、上がったらすぐに部屋の電気を消して布団に入りました。すると――。
「トントントン……」
軽やかに階段を上がってくる足音の様なモノが聞こえ始めて、その直後。生まれて初めての金縛りに掛かってしまいました。
その時、体が動かなくて気持ちはパニックになりかけていましたが、耳だけは何故だか異常に冴えていました。
おそらくこの足音は妹のモノだと思って、私は冷静を装うようにしました。
しかし心の中では、この足音のリズムや気配。あきらかに妹のモノとは違う様に感じていたのです。
段々と怖くなってきました。
足音は階段を上り切ると、そのままスーッと部屋の中に入って来ました。
私は緊張しながらも、息を殺してひたすらに耳を澄ましていました。すると突然、耳元で喉を押しつぶす様な微かな声で――。
「おねーちゃーん……」
そう囁かれたのです――。
今でも鮮明に覚えている、その声は中学生の妹のモノではなく、もっと小さな幼女の様な声でした。
翌日、それとなく妹にこの事を確認してみました。彼女が言うには、お風呂から出た後はしばらく、1階でテレビを見ていて2階には上がっていないと言われました。
おそらくあれは妹では無い……。