これは、今から20年ほど前に体験した話です。季節は真夏、8月のお盆休みの頃でした。
当時の私は若気の至りもあってか、事あるごとに色々な場所へと肝試しに行っていました。例えば小坪トンネルとか、そう言う場所を友人と夜な夜な周ってました――。
当時、川崎にある火葬場と大きな墓場がある地域に住んでいて(その地域にいる人ごめんなさい)、その大きな墓場にも肝試しに行きました。そこは心霊スポットとしても有名な場所で、始めて行った時は友人と計3人で行きました。
まず線路を渡り、入口から500~600mぐらい行った所にトイレがあります。そのトイレも霊が出るという噂があって、実際にトイレを一個室ずつ開けてみたりもしました。
当時のトイレなので汲み取り式だったというだけで、特に変わった事はありませんでした。私自身が霊感無しなので、何も感じなかったという状況でもあったのでしょう。
そのトイレを出て更に奥に歩いていくと、納骨堂の墓から土葬の墓に変わる境界線に差し掛かります。更に奥に進むには、昔の墓石で造られた階段を歩いて登ります。その墓石階段の近くに生えていた木から、定期的に何かが落ちるような音がしていました。急にこの辺りから皆が怖がり始めて、一緒にいた2人が急ぎ足で階段を登り切りました。
その先は、これまた霊が出るという有名な連続鳥居があります。そこに辿り着いてから、何か起こる事に期待してしばらく居座わっていました。しかし結局そこでも収穫はゼロ。残念でしたが、その日はおとなしく帰りました。
その数日後、今度は自分一人で肝試し(勇気試し)をしよう思い立った私は、再びこの大きな墓地に出向きました――。
前回と同じ線路を渡たった先、トイレに続く道を歩いていた時、奥に誰か大人の男が一人、灯りも無しに歩いているのを見つけました。左手を翻し、時計に目をやると……。
――時間は深夜2時。
ほんの少し恐怖を感じた私は「きっと誰かがパトロールをしているんだ」と信じて、更に先へ先へと歩いて進みました――。
「あああぁぁぁーーー!!!」
突然の絶叫。男が急に大声を張り上げたかと思うとこちらを振り向き、襲いかかるように猛然と走ってきました。
とにかく驚いた私は、無我夢中で来た道を引き返し、走って逃げ出しました。とてつもない恐怖から、1度も立ち止まる事無くひたすら走り続けました。
なんとか無事に自宅アパートに辿り着き、即行で鍵を閉めました。しばらくの間は恐怖と不安で頭がいっぱいでしたが、時間の経過と共にそれも段々と落ち着いてきました。翌日は仕事だったので、朝に備えて眠る事にしました――。
その夜、私は金縛りに遭いました。しばらくすると金縛りは解けたので、きっと今日は疲れたんだろうな……とその時は思いました。しかしこれが尋常じゃなかったんです。1~2時間に1回のペースで金縛りにかかる。当時はもう変に恐怖を感じていたのですが、翌日になれば収まるはずだと信じて耐えたんです。
しかし翌日の睡眠時も同様の金縛りに遭い、その翌日も、またその翌日もと……結局これがその後1週間ほど続きました。
これは一体いつまで続くのだろう?自分はどうなってしまうんだろう?そんなことを考えながら眠りにつくと、またしても金縛りにかかりました――。
「もう勘弁してくれ」
正直、精神的にも肉体的にも相当参っていました。もう限界だ。でもその日の金縛りはいつもとは違っていたんです――。
「もう来るな……」
低くゆっくりとした声……。雁字搦めで体が動かない私は、どこからともなく響いたその声を確かに聞きました――。
その日以降、金縛りに遭うことは無くなりました。私が霊感の無い人だけに、まさかこんな目に遭うとは夢にも思っていませんでした。すごく怖くて後味の悪い体験談です。