デンマークの古い家

投稿者 – ナルニエル様

 これは私の友人である、エルサ・マリーンというデンマーク人の女の子から聞いたお話です。

 イギリス留学中に出会った当時、彼女はまだ17歳。非常に親日家であって、子供の頃に広島に行った事があったり、折り紙なども出来ると言う。なので日本人である私と、すぐに打ち解ける事が出来ました――。

 エルサが15歳の時。とても古い歴史を感じさせる様な趣の実家で、両親と4つ年上の19歳の姉、共に4人で暮らしていました。

 デンマークは古い町並みを後世に残していこうという試みをずっと続けているそうで、家屋などは築100年、200年は当たり前。内装のリフォームや軽い補修などを繰り返して、保存していこうという文化があるそうです。

 このエルサが住んでいた家も相当に古く、前の家主が亡くなった後に両親が買い取って移り住んだものでした。そんな古い家屋で家族も寝静まった深夜に突然――。

「離せー!!」

 というような叫び声が聞こえて、エルサは目を覚ましました。

 今のはなんだろうと考えてみると、どうやらこの声は4つ上の姉が悲鳴を上げたのだと判りました。すぐさま飛び起きたエルサは姉の部屋に駆け付けてドアを開け――。

「お姉ちゃん!どうしたの!?」

 声を挙げながら部屋の中に飛び込みました。

 すると姉は鬼気迫る様な「モンスターライク」なヤバイ形相で、身の回りにあるありとあらゆる物を、部屋の窓に向かって投げつけているのです。

 それを見たエルサは姉の尋常ではない様子に危機感を感じて、両親を呼びに行って3人で姉を取り押さえて落ちつかせました――。

 落ち着きを取り戻した姉に一体何があったのかを聞いてみると――。

「どうにも変なものを見た」

 そう答えたのです――。

 姉は部屋の隅の壁にピタッとベッドを寄せて置いていて、すぐ脇には西洋風の大きな窓がありました。

 そこで寝ていると、突然金縛りに遭い目が覚めたそうです。その瞬間、視界の横に何かがいる事に気が付いて、姉はそちらに目を向けました。

 すると窓の向こう側から、自分と壁の間のベッドの隙間に入り込もうとしている黒い人影がいるのです。

 何者かは判らない。ただ全身真っ黒な、照明の消えた暗い部屋よりももっと深い暗闇が人の形を成していて、今まさにベッドに潜り込もうとしているのです。

 姉は思わず悲鳴をあげましたが、金縛りに遭っているので声も発せず。そうこうしてる間にも黒い人影は完全に部屋の中に入って来てしまい、姉のすぐ傍にいるのです。

 全身黒い人影はその場で留まっていて、顔も判らず目も見当たらないながらも、何となく自分の方をジーッと見つめている様に思えました。

「お願いだから金縛りが解けて!体が動いて!」

 必死に姉が心で祈っていると、黒い人影から手の様なものが伸びて来て、姉の首元を両手で掴んでギューッと締めつけ始めたのです。

 このままではマズイ。何とかしなければ!そう考えた姉が渾身の力を振り絞って――。

「離せー!!」

 そう叫んだ瞬間に急に声が出て、金縛りも解けて体が動き出しました。するとその直後には、既に黒い人影の姿は見当たらなかったそうです。

 しかし、デンマークの女の子はとても気が強い。逆上して錯乱してしまったエルサの姉。手当たりしだい身の回りの物を手に取っては、人影が侵入してきた窓に向かって振り回して投げつけたのです――。

 エルサの姉の部屋にある西洋風の大きな窓は、割られてもいないし鍵も閉まっていたそうです。

 西洋においての家屋というのは、新築で手つかずというよりも、以前に誰かが住んでいて手の入っている物という概念が強いそうです。長い時間を掛けて代替わりを繰り返してきた家。こういった家ではゴーストが出やすく、古い建物に執着がある傾向が強いという様な考え方もあるようです。

 イギリスの伝承では、100年以上存在している家屋には必ずゴーストがいると言われるほど。築500年以上の中世のお城では、毎晩窓の外に殺されたメイド長の霊が姿が表すなんて噂も聞いた事があります。

 西洋ではこんな話は割とあるのだそうです。

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