これは埼玉県の秩父市にある永福寺で、実際にあった出来事です。
1976年の夏ごろ。当時奇妙な噂が流行っていました。それは、近くを通るタクシーや一般の車のドライバー達が「ある女を見る」というものでした――。
お寺周辺の道路を深夜に走っていると、道の真ん中にうずくまっている女がいるのを見付けました。
当時はまだ、コンビニをはじめとしたお店などがあるわけでもない。特に何も無い、辺りは山間の真っ暗な景色。
心配したドライバーは車を停めて駆け寄って行き、女に対して様子を伺いつつも訊ねます――。
「大丈夫ですか?」
すると女は突然バッと頭を振り上げてドライバーの方を見上げたかと思うと、次第に顔が腐乱したかのようにドロドロに溶けだしたのです。
それを見たドライバーは恐怖のあまり驚いてしまい、思わずその場から逃げ出してしまいました。
この女を目撃したというドライバー達が語る服装など証言が一致していて、それは――。
「夏場にも関わらず黒いセーターを着て、スカートを穿いている」
というものでした――。
それから1年以上後の1977年12月7日。地元の消防団員たちが防災活動の一環として、永福寺にある貯水槽を点検する事になりました。
子供達による悪戯や事故を防ぐために、厳重に閉ざされた貯水槽を開けてみる。すると何やら内部から、何かが腐ったような異臭が漂ってきます。
一体中で何が起きているのかと覗き込んでみると、そこで消防団員達は女性の腐乱死体を発見してしまうのです。
その女性は全身の肉が腐りきっていて形を成していなかったそうですが、服は着たままの状態でした。
黒いセーターとスカートを……。
後の捜査で女性の身元と死因が判明。死後2年程経過していて殺害されていたとの事でした。この事件の犯人は既に逮捕されていて、事件は収束を迎えたそうです。
通常よく聞く話では、まず事件があって、その場所で霊が目撃される様になった……。という様なパターンなのでしょう。
ですがこのお話に関しては、遺体が発見される1年以上前から目撃談が広がっていました。そして女性の遺体が発見されて以降、永福寺周辺での女の目撃談は無くなったそうです。
もしかしたらこれは、被害者女性が――。
「私を見付けて下さい……」
こんなメッセージを送り続けていたのかもしれません――。
現在。問題の永福寺にあった貯水槽は、既に無くなっているそうです。しかし、この永福寺付近では以前と違う形である噂が囁かれているのです――。
「カーナビで行き先を設定すると、勝手に被害者女性のお墓に辿り着いてしまう……」
今でもあの女性は、当時とは違う。何かを私達に伝えようとし続けているのでしょうか。