これは子供の頃に住んでた島根県の出雲での体験談である。私は小1から小6まで、島根県出雲市に住んでいた。その頃は写真を撮るのが趣味で、よく暇があったら自転車で撮影に出掛けて行った。撮影対象は静止物や風景など。
季節は春の少し暖かくなってきた頃で、その日は小雨が降っていた。島根県出雲市の天気は雨が多いのだ。所謂、狐の嫁入りってヤツである。
それで、まぁ小雨程度だったし、カメラも生活用防水だったから大丈夫かな?と。いつもは自転車で大体片道20分圏内くらいを適当に走り回って、色々と写真撮っていた。
でもその日は何故だか、もうちょっと遠出してみようかな~?という気持ちになって1時間くらい走ってみることにした。その内に見たこともない神社に辿り着いた――。
その時の神社は、小雨と生い茂った木々の緑と、苔むした石段の階段が妙にマッチして何ともイイ感じ。意気揚々と何枚かシャッターを切った。それから、せっかくだからちょっと石段の上まで行ってみようかな~?と思ったのだが、その時は自分でも理由はよく分からないが、途中でやめて帰ることにした。
家に帰って、早速先ほど撮ってきた石段の画像を見てみた。まぁ石段だからデコボコしているし、これがまた味があって良いんだよな~!と自画自賛していたんだが、石段に文字?の様なモノが写ってる事に、その時初めて気が付いた。
その文字の部分を拡大して見てみると、苔がむしていたり所が々欠けてたりして、はっきりとは読めなかった。しかし石段の石に、なにやら漢字の様なモノが彫ってある。なんとなく気にはなったが、それが何なのかをわざわざ確かめようとかは考えなかった――。
その数日後、子供会で偶然その神社の縁日に行くことになった。現地集合だったので向かったが、着いてみたら救急車が来ていた。
子供会の子供達は、みんな救急車ってだけでなんか大興奮していた。救急車が来てる理由と言うのが、どうやら石段から人が落ちたらしいと……。人だかりの周りで大人達がヒソヒソと何か言ってるのを、よくよく耳を澄まして聞いてみたら――。
「また落ちたの?」とか「これでもう何人目?」とか――。
今石段から落ちた人の怪我や安否などの心配事ではない、どちらかと言うと石段の話をしているのだ。いったい何の事だ?と気にはなったが、とりあえずその日は子供会で縁日を満喫して終わった。
また別の日、母親が近所のおばさんと井戸端会議をしてるのが聞こえてきた。盗み聞きするつもりはなかったが、部屋のすぐ隣で話してるのでどうしても聞こえてしまう。今このタイミングで部屋を出ると、なんか逆に盗み聞きしていた。みたいに思われるかもしれないと、仕方なくそのまま物音を立てない様に耳を傾けていた――。
「あそこの神社、やっぱりああいうのはだめよねぇ……」
「昔は仕方なかったけど、今はもう重機なんかもあるんだから……」
「あの石段はちゃんと供養して新しいの作ればいいのにねぇ……」
母親とおばさんの話し声。
それを聞いていて、供養……?なんで……?あの神社、いわくとか何か、やっぱりそういうのあるの?とその時は思った。でもそういう事じゃなかったんだ――。
私が写真を撮った、縁日に人が石段から落ちた神社っていうのは、戦前に建てられた歴史のある神社らしい。神社と言っても神主なんて居なくて、地域の自治体が管理してる小さな神社で申し訳程度に稲荷と弁天が祭ってある。
戦時中に空襲とかで石段が壊れたりして、その都度修繕に使える調度いいサイズの石が無かったそうだ。それで石段の半分くらいを、不要になった物なのかはよく分からないが、出自不明の墓石で補っていたらしい。石に漢字が彫ってあるというあたりで、なんとなくだけどそんな気はしていた。
よく人が落ちる石段て、事故の全ての原因がそういうもので作られているから……。みたいな祟り的なものかは分からないが、まぁ……。もしかしたらそういう事もあるのかもなと、そう思った。
ちなみにせっかく撮ったいい感じの石段の画像達は、なんとなく気持ち悪かったのでその後に泣く泣く全削除することにした。