兵隊さん

投稿者 – ぱぷるん様

 ちょっと色々ありまして、幼少期に入退院を繰り返してたんです。その頃いつからか、いつも知らない人が私を見ている事に気が付きました。

 その人は帽子の様な、ヘルメットの様な何かをかぶっていて、それの襟足部分に布がヒラヒラとしていて。緑色の作業服のような格好で、足には包帯が巻かれていました。

 今になって分かりますが、まさに兵隊の格好でした。キリッとしているが優しげな顔立ちで、古き良き日本人の顔。という感じでした――。

 その人は私が1人で遊んでいる時だけでなく、誰かと話してる時、看護師さんが傍にいる時等、いつでもそこに現れました。

  少し離れた所で立って、ただただ私を見つめている。自分以外には見えていない様で、ふと気が付くと姿が見えず、いつの間にかに消えていました。

  私も少しは怖がってもよさそうなものでしたが、四六時中そこにいるし、その人自体に恐怖心を感じさせる雰囲気が全く無かったので、一切恐怖を覚える事はありませんでした。

 そんな最中(さなか)、退院日がやってきました。

 ふと人の気配がしたので横を見てみると、やはり兵隊さんが立っていました。その日はいつもと違っていて、手を伸ばせば触れる事が出来る程、傍らに立っていたんです。

 私が思ったことは――。

「あぁ……退院を祝ってくれてるんだ」

 くらいのものでした。しかしその瞬間、私はある違和感を感じました。説明は難しいのですが、何でしょうか?体の中に声が響いてきた、そんな感じでした。

 兵隊さんを見ると、何やら紙コップ製の糸電話を手に持っていて、それを通して私に何かを伝えようとしている様子です――。

「来る……もうすぐ来る……」

 私は、それを聞いて意味がよく分からず、とりあえず今日でお別れだねという気持ちで――。

「バイバイ……」  そう伝えました。それに対して兵隊さんは――。

「死ぬのはまだ早いよ……。もっとゆっくりしていきなぁ……」

「え?」

 と聞き返しましたが、兵隊さんは手にしていた糸電話を私に渡し、敬礼をするとまた、フッと消えて居なくなってしまいました――。

 数日後。私は1人で家にいる時に、翌日の学校で始めて会うクラスメイト達に自己紹介をしなければならず、その練習をしていました。

 何やら人の気配がしたので窓を見てみると、ベランダに兵隊さんが立っていたんです。

 私はおいでよ、中に入りなよと手招きをしましたが、兵隊さんはニコッと笑みを浮かべながらも首を横に振りました。それから兵隊さんは、病院で最後に見た時と同じように敬礼をして、またもフッと消えてしまいました。

 消える瞬間、ヘルメットから出てる布がふわりとしたことを覚えています。それっきり、兵隊さんは私の前には現れなくなりました――。

 あの兵隊さんは一体私に何を伝えたかったのでしょうか。この出来事の2日後、阪神淡路大震災が起こったのです――。

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