私が高校生のある日の夜、地元の先輩達にドライブに行こうと誘われました。
日が変わる少し前、23時過ぎに私の家の前に1台の8人乗りの1BOXワゴンがやってきました。乗り込んでみると自分の他に既に5人の先輩が居て、これからお台場の方へと行くつもりだと談笑していました。
こんな時間にお台場に行ってから何をするか。それを聞かされてはいないものの、まだ高校生だった私は少し大人びた深夜のドライブに心を躍らせていたのでした――。
私の地元の方から国道254号線を使い、池袋周辺を通過していた頃でした。土地勘がある運転手のN先輩がなんとなしに裏道でも使おうと、1本の路地へと入り込みました。
私を含めた残り5人は何も気にせずに雑談をし続けていたのですが、しばらくするとN先輩が呟きました――。
「これなんかおかしいなぁ。大丈夫かな……」
他の先輩がどうしたのかと尋ねると、どうやら道に迷ってしまいドンドン狭くなって行くので切り返して戻るのも難しいとの事。
そもそも最初に路地に入った段階で、N先輩は何度か通った事がある1本道だったそうで、何処へ抜けれるかも把握していたそうなんです。
しかし気が付くとN先輩が初めて見る様な、街灯1つも立っていない真っ暗な薄気味悪い路地に迷い込んでいたのです――。
「まぁ、しょうがないから……しばらくこのまま進もうか」
N先輩は不安げな表情を浮かべながら、そのまま車を走らせる事にしました。
それから少し経って、再びN先輩が呟きました――。
「いやぁ……やっぱまずいなこれ……」
皆で今度はどうしたのかと訊ねようと運転席の方を見た時、全員が思わず――。
「えっ……」
と声を挙げました。
フロントガラスの先に見える風景。そこはなんと、墓地だったのです。というより、自分たちの乗っている車が墓地の中を走っていたのです。
車の幅はもうギリギリで、右も左も数十cmで墓石や外柵に当たる様な状態。道も舗装されておらず土になっています。
さらに時間は既に日を跨いだ深夜。N先輩はそこで車を停め、車中は不気味な雰囲気に取り込まれて皆が無言になっていました――。
「これ以上は狭すぎて無理だ。バックして戻ろう」
「おいスケキヨ。ちょっと降りて誘導してくれ」
一番後輩の私が先輩からの指令を受け、気が進まないながらもドアを開け、墓地の湿った土の地面に降り立ちました――。
辺りはヒンヤリと冷たい空気が立ち込めています――。
「やっぱり夜の墓場は気味が悪いな……」
そんな事を考えながら、車の左側から降りた私は、その先にあった墓石の裏に立っている木をなんとなしに眺めていたのです。
するとその木陰から白い人影の様なモノがスゥゥゥ~っと出て来て、奥の方に去って行ったのです。
私は何かの見間違いかと目を擦ってから2度見したのですが、その時にはもう白い人影は見えなくなっていました――。
「あ~ヤダヤダ!早くここを出よう」
そう独り言を呟いてからそそくさと車の後ろに回り込み、N先輩の誘導を始めました――。
「オーライ!オーライ!オーライ!……」
すると突然車内から先輩の叫び声が轟きました――。
「おいスケキヨ!早く車に戻れ!」
何故?まだ墓地から抜けれていないのに……。そう思いつつ車のドアの前まで戻ると、いきなり腕を掴まれて車内に引っ張り込まれました。その直後にN先輩はバックで急発進したのです――。
「ヤバイヤバイ!!」
「はやくしろ!はやくはやく!」
先輩達が口々に怒鳴り合っています。急発進して揺れる車内で私は転がり回ってしまい、状況がよく飲み込めませんでした。なんとか態勢を立て直して窓の外を見てみると、丁度石造りの門の様な所を抜けて、住宅街へと出たのです。
何とかぶつけずに済んだ車はそこで180度切り返して、そのまま再び猛スピードで走りだし、元々走っていた国道まで戻ったのでした――。
その後。車内が落ち着きを取り戻した頃、私はさっき何があったのかを先輩に教えてもらいました。
先ほど私が車の誘導をしている時、車のはるか前方から何かが近づいて来るのをN先輩が発見しました。
一体何なのかと目を凝らしてみると、白い着物を着た老人の様な人物が、猛然と走ってこちらに近づいて来たそうなんです。
その老人自体が白く発光している様に見えたそうで、直感でこれはこの世のモノでは無いと悟ったらしく、とにかく逃げなければと私を呼び戻したとの事でした。
私自身はソレを見る事は出来ませんでしたが、私を除いた残りの5人全員には同じモノが見えていたそうなんです。
後日、あの日に迷い込んだ墓場は一体どこだったのかと調べてみました。
位置的にはおそらく雑司ヶ谷霊園ではないかと思われますが、あの時見た墓地に似た雰囲気の場所も、墓石と墓石の間に8人乗りの1BOXカーが入り込めるような道も見付ける事が出来ませんでした。
最後に私が見た石造りの門も見当たらなかったのです。
N先輩に話を聞くと、走っていた路地から墓地に入り込んだ境界線は判らなかったらしく、気が付くと周りが墓地に変わっていたかの様なおかしな感覚だったと言うのです。
あの夜、私達は一体どうやって、そして何故あの墓場に迷い込んだのでしょうか。何とも気味の悪い出来事でした。