不穏なカラス

投稿者 – COD様

 小学生の頃の懐かしい夏の記憶。夏になるとよく虫取りに山へ行った。その夜も親父と一緒に山へ向かい、ヒラタクワガタを探しに行った――。

 向かった場所は相当な山奥で、車で狭い山道を20分くらいかけて走って登らなければならない。その日は山道の入り口付近で、いつもは見かけない大型のトラックとすれ違った。何故こんな狭い所を、あんな大きなトラックが走るんだろうね?等と親父と話した。

 山道の一番奥のドンツキまで行くと、そこには小さい祠があり、そのすぐ近くに駐車スペースがある。そこに車を停めて虫を探しにいった。ちなみにその祠が何の為にあるのかは分からないが、前からなんとなく気になっていた。祠の周辺には、アリジゴクの巣が複数あったのを覚えてる。

 いよいよ登山道から散策を開始した。なかなか目当てのヒラタクワガタに出会えず、道なき道も草をかき分け調べていった。

 その時だった。夜なのに突然カラスの鳴き声がして、なんだ?と思った直後、俺は枯葉の下にあいた謎の穴に落ちて体がハマってしまった。しかしそこまで深い穴ではなくて、何とか頑張って抜け出すことが出来た。

 翌日に親父と、あの落とし穴みたいなのなんだったんだろう?という話をした。すると親父曰く――。

「山にはあんなものがいっぱいある、暗い時は気を付けないといけない」

 らしい。

 親父にそう言われたので、一応あの謎の穴は山によくあるものだと信じたが……。実際のところ、それ以来山であんな深い穴にはハマったことも無いし見たことも無い――。

 話は一転、これからは俺が高校生の時の話。自分も大きくなって虫取りは一旦卒業。その代わりに、今度は親父と夏に釣りに行った。向かったのは防波堤にある釣り場。駐車場から釣り場までは離れていて、2kmくらい徒歩で移動するような場所だった。

 しばらく釣りをしていたら陽も落ちかけて、そろそろ帰ろうという話になった。駐車場までの2kmの道程を、荷物を抱えて2人でトボトボと歩いていた。

 その時だった。今まで何度か行ったことがある釣り場だったので、いつもは特に何も感じなかった。なのにその日は、どうも後ろから誰かにつけられているような気配がした。

 駐車場に近づくにつれて、その気配がどんどん圧倒的なモノに変化し、ジワジワと自分の後ろに迫ってくる感じがする。俺は何も言わず親父のすぐ横について、その気配に対して死角を減らそうと構えた。しかし相変わらず気配は強くなり続け、気付けば自分のすぐ後ろにまで迫っていた。もはやこれは「何かの気配を感じる」ではなく、「何かがいる」という確信に変わった。

 ついに俺は圧迫感に耐えきれなくなり、意を決してバッ!っと振り返った。

 すると振り返った瞬間、1羽のカラスが「サーッ」と頭上を飛び去って行くのが見えて、途端に背後に感じていた気配もフッと消えてしまった。

 感じていた気配の正体はあのカラスだったのか?と思い、何だかホッとして正面に向き直ったその時、急に「パチンッ」という音がした。何かと思ったら、親父のしていた腕時計が地面にポトリと落ちていた。

 その腕時計を拾い上げてよく見てみると、金属製のベルトが鋭利な刃物で断ち切られたかのように、綺麗な切り口で真っ二つになったいた――。

 この二つの体験に共通するのは「カラス」だと思うのだが、実際の所、何か関連性があるのかは分からない。しかし今でもカラスの存在を感じると、何やら不穏な気持ちになる。

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