臨時教師

人怖 アイキャッチ
投稿者 – ゆきこ様

 これは、私の中学時代の出来事です。中学2年の時に、数学の女性教師が産休に入りました。そのため、女性教師が戻ってくるまでの間、臨時で中年男性の数学教師がやってきました――。

 この臨時教師のN先生は、非常におとなしい性格で、声も小さく、授業中もじもじとしている。こんな様子だったので、初日からクラスの大半の生徒に舐められてしまいました。

 授業中はほとんど真面目に授業を聞いている生徒がおらず、私語をしたりや携帯で遊び始めるなどで、常にガヤガヤとしていました。

 これに関して、隣のクラスで授業中の先生が注意しにやってきたり、職員会議で問題視されたりしていました。しかしN先生は一向に生徒を注意したりはせず、変わらず小さい声でもじもじと授業を続けていました。

 この様な状況が数カ月続いたある日の授業中、クラスのリーダー的存在であったA子というギャルの娘が、他の娘たちとの私語の途中、物凄い声量で爆笑をし始めたんです。その時突然教卓の方向から――。

「いい加減にしろっ!!」

 聞いた事のない様な怒号が聞こえてきました。

 一瞬で教室が静まり返り、生徒全員の視線は、教卓の前で目を真っ赤にして肩を震わせるN先生に注がれました。

 N先生は手に持っていた教科書を、教卓の上に「バンッ!」と叩きつけると、ツカツカとA子さんの前まで歩いて行きました。後2~3歩でA子の目の前だという所で、突然A子が机を蹴り飛ばし、それがN先生に直撃しました。その後間髪いれずに――。

「はぁ?うるせぇよ!調子乗んじゃねぇよ!」

 啖呵を切って、N先生を睨みつけました。

 N先生もその場で立ち止まり、A子を「キッ」と睨みつけます。それに対しA子は――。

「見てんじゃねぇよ!まじキモいんですけど!うざい!消えろ!」

 などと罵声を浴びせた後、鞄を持って教室から出て行ってしまいました。

 ある日突然キレだしたN先生にクラスは騒然とし、隣のクラスからも先生や生徒たちが様子を見に集まってきました。すると正気に戻ったのか、N先生は教卓の所まで戻っていき――。

「お騒がせしました……」

 相変わらずの小さな声でプツリと囁き、何事も無かったかのように授業を再開したのです。

 A子は翌日に生徒指導室に呼び出されて厳重注意を受け、この日以降、N先生の授業は平穏へと変わって行きました――。

 その出来事から数カ月後、私達は3年生になり、数学の担当教師も変わってしまって、N先生を見かけるのは廊下ですれ違う時くらいになりました。

 この頃、ある噂が学年全体に広まっていたんです――。

「N先生がA子に付きまとっている……」

 近頃、A子の自宅近くにN先生が出没している。A子が夜に自宅の窓から外を見た時に、N先生が居て目が合った。A子が塾の帰り道で背中に視線を感じると思って振り向いてみると、一定距離を開けてN先生が自転車で付いてきている……、など。

 気味悪がったA子は母親に相談したらしく、今後も続くようだったら学校や警察への通報も考えようという話になっていた時、産休に入っていた女性教師が復帰することに決まりました。

 これによってN先生は、A子に対する行動が大きな問題になる前に学校を去る事になったのです。それ以降、N先生はパッタリとA子の周辺に姿を見せる事が無くなりました――。

 それからさらに数カ月後。私達は修学旅行で京都へとやって来ました。2泊3日の修学旅行。2日目の夜は皆気分が高揚し、消灯時間を過ぎた後も雑談を続けていました。そんな時、A子の携帯が鳴りだし、母親からだと言いながら電話を取りました。

「もしもし……うん……うん……えっ!?」

 しばらく話した後、驚いたリアクションを取ったA子。電話を切った後、私達に聞いてほしい話があると、静かに話しだしました――。

「あのさ、N先生覚えてる?あの人、逮捕されたらしいよ……」

 突然の知らせに皆絶句。しかしその後すぐに、なぜそれが分かったのかと聞くと、A子の母親が新聞を読んでいた時にたまたま記事を発見したとの事でした。

 警視庁によると○○中学校教諭のN・K容疑者を逮捕。インターネットで知り合った30代の男性3人と共謀し、女子中学生に婦女暴行をした疑い……。

 そんな内容の記事だったそうです。

「まじ!?N先生ヤヴァくない?まじウケるんだけどー」

 などと私達が笑っている脇で、A子の顔がみるみる青くなっていったのが分かりました。気になって、一体どうしたのかと聞いてみると、A子はこう答えたんです――。

「N先生……、おとといの夜さ、久々に家の前に居たの見たんだけど……」

 修学旅行出発の前夜。運が良かったという事なのでしょうか。もしも運が悪かったら、その新聞記事の被害者がA子であった可能性もあったのではないでしょうか。

 それを考えると、私達のテンションは一気に急降下してしまい、修学旅行最後の夜は静かなものとなってしまいました。

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